街中で「もみほぐし」や「リラクゼーション」といった看板をよく見かけます。
これらが保健所の許可を得ていない(無資格である)ケースが多いことは知られていますが、
よくこのような声を聞くことがあります。
「法律で禁止されていないの?」
「昔の判例で、怪我をさせなければやって良いことになったらしいよ」
実はこの「判例(昭和35年 最高裁判決)」の解釈には、非常に大きな誤解が含まれています。
今回は国家資格を持つ専門家の立場から、この判例の「本当の結末」について事実ベースで解説します。
1. そもそも何が裁判になったのか?
この裁判は、手で行うマッサージが争点だったわけではありません。
被告人が使用していたのは「HS式無熱高周波療法」という、当時存在した特殊な電気器具を用いた療法でした。
この電気療法を、医師やあん摩マッサージ指圧師の免許を持たない人が行ったことで、
「医師法およびあん摩師法(現あはき法)違反」として起訴されたのが事の発端です。
2. 最高裁が下した判決(誤解の元ネタ)
昭和35年1月27日、最高裁判所はある一つの判断を下しました。
これが現在、拡大解釈されて広まっている部分です。
【最高裁の論理(要約)】 職業選択の自由は憲法で保障されている。 もし、その行為が「人の健康に害を及ぼす恐れがない」のであれば、それを禁止するのは憲法違反である。 原審(下の裁判所)は、このHS式療法が人体に有害かどうかを科学的に検証していない。
つまり、最高裁は「無資格でやって良い」と言ったのではなく、
「有害かどうかまだ調べてないから、もう一度調べ直してきなさい(審理のやり直し)」を命じたのです。
しかし、この「害がなければ禁止できない」という文言だけが一人歩きし、
現在の「怪我をさせなければ、無資格でマッサージ的な行為をしても良い」という
独自の解釈に使われるようになってしまいました。
3. 教科書には載らない「その後の結末」
この話には続きがあります。
最高裁から「有害かどうか調べてこい」と差し戻された仙台高等裁判所は、
改めて専門家による鑑定を行いました。
その結果はどうだったのでしょうか。
- 鑑定結果: この器具や療法は、使用方法によっては「人体に危害を及ぼす恐れがある」と認定されました。
- 最終判決(昭和39年): 被告人は有罪となりました。
つまり、「無資格でもやって良い」と主張する根拠に使われている裁判は、
最終的には「有罪(やってはダメ)」で終わっているのです。
4. 判例から学ぶ「身体を守るための基準」
この一連の裁判から分かる事実は一つです。
法律(あはき法)が免許制度を設けている理由は既得権益を守るためではなく、
「医学的知識のない者が人体に触れることには、常に潜在的な『害(リスク)』があるから」です。
「リラクゼーション」や「ボディケア」と名前が変わっても
人の体に触れる行為である以上、そこには解剖学や生理学に基づいたリスク管理が求められます。
当院があえて国家資格にこだわり保健所の厳しい基準をクリアして運営している理由は、
法律を守ることはもちろん、何よりも「患者様の体に、万が一のリスクも負わせたくない」という
安全への責任があるからです。
お体を預ける場所を選ぶ際は、「安さ」や「手軽さ」だけでなく、
「その施設が、国が定めた安全基準(免許・保健所登録)を満たしているか?」という視点も、
ぜひ判断材料の一つに加えてみてください。
参考文献: 最高裁判所 昭和35年1月27日 判決(昭和(あ)2990) 裁判所ウェブサイト 判例PDF
※本記事は、過去の判例事実に基づく法制度の解説であり、特定の店舗や業態を批判するものではありません。

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